なぜ漢方治療が必要か?

古くて新しい、求められる医療をめざして

 大学の学生時代、薬(ステロイド)で治療されている患者さんがおり、結局は亡くなられてしまいましたが、薬による副作用でひどく苦しんでおられました。薬による苦しみは元の病によるものより得てしてひどいことが多々あります。抗がん剤による副作用や、検査による負担、時にはそういった医療による負担で亡くなってしまうことも多く、これは医原病と呼ばれております。アメリカなどではこれで亡くなる方が元の病気で亡くなるよりも多いと考えられています。医原病は、ほとんどの場合、すべて患者さんの負担になります。 

 転機は医師になり4年目、旧高知県四万十市民病院(現中村市民病院)に地域医療をすることになり赴任した時の事です。以前からその病院は漢方治療などにより地域を活性化するコンセプトで鍼灸治療院などの施設なども作られていた経緯で院内に多種類の漢方薬(エキス剤)が残されておりました。これを手に取った私はあらゆる患者さんに使ってみることにしました。       

 漢方治療の魅力は、その圧倒的な副作用の低さと(下痢や胃への負荷などはやり方次第で対応できます)、勉強すればそれだけ色々な疾病や根本的な治療方法が存在するので、患者さんの親身になって、置いてけぼりな医療でなく、心と体双方を治していくところにあるのだと思います。漢方・中医学の世界は自然界の動きを理解し、その応用で流れる気の一形態である人体をも俯瞰し、一つのモデルとして中医学理論を導き出し、現れている事象から体の内面を診断し治療していきます。その後は、高知中医学研究会の私の師匠でもある木田正博先生(高知県木田山薬堂診療所院長)、故矢田修先生(鍼灸師)などの勉強会にも顔を出すようになり、漢方医への道を歩むようになったのです。

 漢方薬による治療では、患者の体を自然界の小宇宙ととらえ、自然の変化の真っただ中にある人体を自然の一部として考えます。そして、内なる自然を取り戻すべく、本来の抵抗力、免疫力を高め病邪を取り除いていきます。生薬の使い方を誤れば、多少なりとも副作用なども出現することはありえます。しかしそれらを最小限に、効果を最大限に発揮するよう治療します。患者さんと一緒になって身体の本来の回復力を念頭に病気を追い出してまいります